Xcast6 の長所はいろいろとあるが、私達が特に注目している点はパケットが複製される点である。そしてその長所を一番生かせる場所が IX での複製であり、早稲田大学が NSPIXP6 に接続している BGP ルータを Xcast6 に対応させ、実験を行った。そして、BGP ルータを Xcast6 に対応させることで、異なる ISP 間での通信遅延を大幅に減らすことができた。
2. 実験の環境
今回は、以下のような環境で実験を行った。
図1 実験の環境
3. 実験の概要
実験では、ホスト A から各ホストに向けて Xcast パケット (UDP) を送信する。
パケットには、送信時間をタイムスタンプとして埋め込んでいる。
パケットの宛先アドレスは、B, C, D, E の順になっている。
A を除く各ホストではパケットを受信した時間を記録する。
このような実験を行った場合、早稲田大学の BGP ルータが Xcast 対応になる前と後で、遅延時間にどのような違いが生じるか測定を行って調べる。パケットの送信される様子は、以下の図のようになると考えられる。
図2 パケット送信の様子 (Xcast 対応前)
図3 パケット送信の様子 (Xcast 対応後)
4.1 Xcast 対応以前
まず、早稲田大学の BGP ルータが Xcast 対応になる前に実験を行った。下のグラフは、各ホストで受信したパケットの遅延時間を表している。グラフの横軸は、各ホストにて受信したパケットのシーケンス番号、縦軸はそのパケットの遅延時間 (秒) である。
図4 Xcast対応以前
次に、BGP ルータを Xcast 対応にして実験を行った。その結果、以下のようなグラフになった。縦軸、横軸とも、先ほどのグラフと同じである。
図5 Xcast対応以降
グラフから、Xcast対応以前はパケットが複製されないため、アドレス順序が下位になるほど遅延時間が大きくなっていることが分かる。対してXcast対応以降はパケットが複製されることで、遅延時間が小さくなっていることが分かる。特にその現象は、ホストCにおいて顕著にみられる。
また、ホストCで受信したパケットは、時おり遅延時間が極端に大きくなる現象がみられる。これはネットワークが輻輳しているからだと考えられる。このとき図4では、ホストC以降にパケットが転送されるホスト (ホストD, ホストE) も、その影響を大きく受けている。対して図5では、パケットが複製されているため、そのような影響は少ない。これはどの経路に対しても当てはまる例ではない。しかしXcastルータを用いることで、悪影響を及ぼす可能性を軽減することができる。
5. 結論
早稲田大学の BGP ルータが Xcast 対応になったことにより、異なる ISP 間での通信において、遅延時間を軽減することができた。また、特定の経路が輻輳状態にあったとき、それを回避できる場合があることも分かった。これはローカルネットワーク内のルータが Xcast 対応になるよりも、Xcast のメリットを最大限に生かしている。特に IPv6 ネットワークにおいては、トンネル接続によって経路長が長くなり、遅延時間への影響が大きくなる。そのため、NSPIXP6 へ接続している BGP ルータが Xcast 対応になることは、非常に有用である。
また、各ホストの受信時間における分散が小さくなったことも、利点として挙げられる。Xcast はビデオ会議システムなどに用いられることが想定されている。そのとき、極端に遅延が大きいホストが存在すると、発言するタイミングを逸するなど悪影響が考えられる。できるだけ遅延時間の分散を小さくすることによって、会議がスムーズに行えると 予想される。
一方で DoS アタックなど、セキュリティに対する課題も残っている。また、宛先の順序によっては遅延時間が大きく変動する、あるいは通信ができないなどの現象が生じることを確認した。私達は、これらの問題点に対しても検討を行っていく予定である。